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【日本語教師が教える!】漢字嫌いをなくす方法

こんにちは、都内の大学で日本語教師をしているオリスです。
突然ですが、みなさんはどのようにして漢字を覚えたか、いまでも覚えているでしょうか。書き取りを何十回とやって覚えた、という人もいれば、どうやったか覚えていない、思い出せない、という人もいるでしょう。それと同時に、漢字に対して得意・好き、といった感情を持っている人もいれば、苦手・嫌い、という感情を持っている人もいると思います。

それは、子どもも同じです。漢字の練習を好んでやり、どんどん漢字を覚えることができる子もいれば、練習が苦痛で仕方なく、どんどん嫌いになってしまう子もいます。
日本語を学んでいる人の中にも、漢字が大好きで、ひらがなもままならないうちから漢字を使おうとする学習者もいれば、漢字を見ると委縮してしまい、はなから覚えようとしない学習者もいます。
では、漢字が嫌い・苦手だと思っている児童や学習者に、どのように指導すればいいのでしょうか。ここでは、漢字の指導についてすこしまとめてみたいと思います。

a. 覚えなければならない漢字っていくつなの?

まずは日本語母語話者について見てみましょう。日本では、政府によって「常用漢字」というものが定められています。
これは何かというと、「一般の社会生活において、現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」を示したもので、現在は2136字が選定されています(*1)。
そのうち、小学校6年間のうちに学習するべきと文部科学省の小学校学習指導要領によって定められているのが1006字で(*2)、一般に「教育漢字」と呼ばれています。
なお、同じ義務教育内でも中学校の場合は学ばなければならない漢字は定められておらず、小学校で学習しなかった常用漢字のほとんどが読み書きできること、とされています。
以上を踏まえると、日本語母語話者は小中学校合わせて9年間で、約2000字強の漢字を覚えなければいけないということになりますね。

次に、日本語学習者の場合はどうでしょうか。日本語学習者については、特に政府によって定められているものはありませんので、「覚えなければならない」というものはありません。現に、耳から日本語を覚えた結果、漢字はもちろんひらがなやカタカナも読み書きできないけれども日本語は流暢にしゃべれる、という人もたくさんいます。
しかし、日本で生活していくなら、やはり多少の漢字の読み書きはできた方がいいでしょう。参考までに、多くの学習者が受験する「日本語能力試験」で問われる漢字を見てみましょう。
数年前に試験の形式やレベル分けが新しくなり、現在出題基準となる漢字は公開されていませんが、旧試験だったころは公開されており、それによると最高レベルの1級と認定されるには約2000の漢字を覚えることが必要だったようです(*3)。
これはほぼ常用漢字の数に匹敵しますね。ちなみに、日本語母語話者はこれを9年間かけて学んでいく、と先ほどお話ししましたが、日本語能力試験の旧1級の学習時間の目安は約900時間とされています(*3)。
小中学校の国語の時間は合計すると1300時間程度のようですから(*4)、日本語学習者は日本語が母語でないにも関わらず、900時間で約2000字の漢字を覚えるとなると、とても大変なように思えますね。

b. 漢字ってどうやって教えるの?―漢字嫌いをなくすために

さて、これから実際の漢字指導について見ていきましょう。大事だと思うことを3つポイントにしてまとめてみました。

■漢字は難しくない、と理解してもらう

日本人児童の場合は初めて漢字を習うのが小学校1年生ですのであまりないかもしれませんが、日本語学習者の中には「漢字は難しい、数が多すぎる、書き方が複雑すぎる、読みがたくさんありどれを使うのか覚えるのが大変」など、学習前から漢字に対してネガティブなイメージを持っている人がいます。
まずはそのような人たちに対して、「漢字は思っているほど難しくはない」と理解してもらうのが大切です。数が多い、書き方が複雑、といっても、漢字のほとんどはいくつかのパーツ(“へん”と“つくり”など)を組み合わせたものなので、じつはそのパーツをすこしと組み合わせ方のルールを覚えればそんなに難しくはないのです。

また、部首を覚えれば漢字そのものの意味の想像ができますし(たとえば“ニンベン”は体に関する字が多い、など)、同じパーツを有する漢字は同じ音を持つことが多いので(たとえば“生”“性”“姓”はみな“セイ”と読む、など)、そういった特徴を理解すれば膨大に思える漢字もそれほど多いとは感じなくなるでしょう。このようにして、まずは漢字に対するイメージを変えてもらうことが重要です。すこしのパーツを覚えれば、だいたいの漢字は「なんとなくわかる」ようになるのです。

■漢字を覚えることによるメリットを理解してもらう

漢字を覚えるのを嫌がる人の中には、漢字を覚えても意味がない、どうせ使わない、と思っている人もいると思います。そういった人には、漢字を覚えることのメリットを理解してもらいましょう。たとえば、常用漢字を覚えれば新聞や雑誌で使われている漢字の99%を読むことができるそうです(*5)。また、よく使う常用漢字の上位500字が新聞の漢字の8割近くを占めているということですから(*5)、最低でも常用漢字の半分を覚えれば、日本語の新聞の8割の漢字がルビなしでも読めるようになるということです。これは日本語学習者にとってはモチベーションにつながりそうですね。

ほかにも、漢字を知っていることによって優位に立てることもあります。たとえば、会社の入社試験において、同程度日本語が話せ、経験や熱意なども似ている2人の候補者がいたとします。
ただし、1人は常用漢字のほとんどを読み書きすることができますが、もう1人のほうは簡単な漢字しか読み書きできません。会社はどちらの人を選ぶでしょうか。
おそらく、前者の漢字ができる人を選ぶでしょう。このように、漢字ができることが自分の強みになったり、他の人より優位に立てたりすることがあるのです。
これは何も日本語学習者だけに限ったことではなく、日本語母語話者でも同じです。海外で生活したことのある帰国子女も漢字を嫌がる傾向がありますが、バイリンガルという強みに漢字という強みをプラスできるかできないかは、その子の人生に大きな影響を与えるかもしれませんね。このように、モチベーションアップにつながるようなメリットを理解してもらうことも大切です。

(*5)坂野永理、池田庸子、品川恭子、田嶋香織、渡嘉敷恭子(2009)『KANJI LOOK AND LEARN』The Japan Times

■とにかく漢字を書かせ、使わせる

さて、では実際漢字をどのように指導するかというと、それは一言「とにかく書かせ、使わせる」に尽きると思います。漢字は眺めていても覚えられません。
しっかり自分の手で何度も書いて覚えるしかないのです。
日本人児童や非漢字圏(欧米など)の学習者であれば、最初は一つ一つの漢字の読み書きを丁寧に覚えさせます。
先ほども言った、たくさんの漢字のパーツとなる部分を適当に覚えてしまっては、その後出てくる漢字も間違って覚えてしまったりする恐れがあります。突き抜けるのか抜けないのか、中の線が一本なのか二本なのか、など、細かいところに注意しながら覚えさせるよう指導しましょう。
そのうえで、できれば熟語やそれを使った短文をいくつか作らせましょう。
その漢字を使った熟語をいくつか考え、辞書で正しいか調べ、さらにその熟語を使って短文を作って文の中でどのように使うかを把握すると、ただ無造作に一つの漢字を書き続けるよりも、頭に残りやすいと思います。漢字圏(中国など)の学習者であれば、すでに漢字はほとんど知っているので、自分の国の漢字と違うものや、読み方の違うものを中心に覚えていかせましょう。

そして、覚えた漢字はどんどん使わせることも大事です。特に児童は面倒くさがって漢字を書かないこともよくあります。
しかし、それではせっかく覚えたものも忘れていくばかりです。あまり口を酸っぱくして言いすぎると逆効果にもなりかねませんが、たとえば作文をしていたら、「ひらがなで書いたけど漢字で書けるのいくつあるかな」「きょうはこの3つを漢字で書いてみよう」など、書かないことを怒るより、書けるものがあることを自覚させ、少しずつ書かせるようにしてみましょう。

c. 漢字の「覚え方」の指導を

さて、ここまで漢字の指導について見てきましたが、いかがでしたか。漢字は文字なので、どうしても会話だけでは習得できず、書く作業が必要になります。
いくら漢字をたくさん教えたところで、本人が覚えようと努力しなければ身につきません。
しかし裏を返せば、それはつまり「書いて使えば覚えられる」ということなのです。どうすれば漢字を覚えることができるのか、その「覚え方の道なり」を示してあげるのが、漢字指導のもっとも大事な部分なのではないでしょうか。